本当は5月1日が今年の八十八夜でした。節分の翌日2月3日の立春から数えて八十八日目。
“夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘みぢやないか
あかねだすきに菅(すげ)の笠”
“日和(ひより)つづきの今日このごろを
心のどかに摘みつつ歌ふ
摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ
摘まにゃ日本(にほん)の茶にならぬ”
茜(あかね)のたすきをかけて袖をまくり、菅の笠で陽射しを遮りながら、手摘みでチャノキの若葉を一芯二葉で捥(も)いでゆく。とにかく、頑張って摘んでいくのも結構な重労働です。
茜色に染まるとか、和歌の枕詞に「茜さす(ぱっと明るい色になる)」というように、オレンジがかった華やかな緋色よりは暗めの茜色ですが、草木染めにも使われます。止血や解熱の効果があります。茶摘みで指を切ってしまっても、茜のたすきで止血できるわけです。「薬草だらけの国」の日本ならではの知恵ですね。
このように、摘まれた一番茶は、翌日までにすぐ「蒸し」に入ります。浅蒸しで20秒程度、静岡などの深蒸し50秒程度ですが、これによって酸化がすすんで発酵してしまうことを防ぎます。日本茶独自の不発酵茶というのはここがポイントです。「味・香り・水色」の基本的な性格はここの工程で決まります。深蒸しになるほど、後の工程で茶葉の細胞膜がこわれやすくなるので濃いめの水色になり、渋味と香気は少なくなります。
次が「揉み」です。煎茶の茶葉が捻れているのはこのためです。繊維をほぐして、うま味成分を茶葉全体に行き渡らせる効果があります。これを行いながら「乾燥」させます。これで、「荒茶」ができるわけですが、この段階で選別を行います。荒茶までは各産地の工場や生産者が行います。
その後の「火入れ」や場合によっては「合組(ごうぐみ。ブレンド)」を経て仕上げ茶になります。合組が一般的ですが、ウイスキーの「山崎」や「白州」のようにシングル・モルトとも言えるシングル・オリジンの茶葉ももちろんあります。
新茶がすべて5-6月に出回るわけではありません。冷凍保管技術が進み、今では通年で一番茶を楽しむことができます。野菜・茶業試験場の研究では-60℃以下の保存では保存条件(含気包装、窒素置換包装)や解凍条件(低温解凍、室温解凍)によらず品質劣化はなかったそうです。
ほうじ茶ももちろん良いのですが、ZENJIROとしてはもっと多くの人に煎茶の魅力を知って頂きたいと考えています。